『その日の前に』重松清著

その日のまえに

その日のまえに

友人が読んで泣いたという小説を借りた。
重松清さんの小説は初めて読んだけど、
私にはちょっと読みづらい文章だった。
なんというか、スルスルと読めないというか…


テーマも「身近な人の死」だったので、
内容も重いし、文章も読みにくいなあと思いながらも、
短編集だったので、タイトルになってる章のところだけ読んじゃおっか?
と思いながらもとりあえず順番に読んでいた。
短編集にしては、みんな話のディテールが似ていて、
うーん、どうなんだろう?と思いつつ。


最後の3つの短編。
「その日の前に」
「その日」
「その日の後で」


その日というのは、癌で余命を宣告されていた妻、和美の命の期限が終る日。
「その日」に向けて、様々な準備をしつつも、精一杯生きようとする妻と、
それを支えながらも葛藤し続ける夫。
気がついていながらも言えずにいた子供たち。
そして、遺された者には、「その日」の後に訪れる日常。


この3つの短編を読んで、私は夜中に本を読みながら号泣した。
嗚咽しながら読んだ。


四川大地震で、多くの方が突然に命を奪われた。
その事を最近、少し考えていたからかもしれない。


突然、奪われる命と、命の期限を宣告され、その日に向かって生きなくてはならない人たち。
どちらも終ってしまう命だけど、どっちがいいのだろう…と。


逝く者も遺される者も、愛する人たちとの別れは辛い。
覚悟は出来ていても辛いだろう。
子供たちの気がついていたけど、言えなかったんだというくだりで、
あまりにも切なくて苦しくて、私はとめどなく押し寄せてくる涙をこらえることが出来なかった。


そして、今まで短編集だと思っていた、前の4つの短編が、「その日の前に」の章で、
少しずつリンクし始める。
あーーー、いきなり「その日の前に」から読みはじめなくてよかった…と思った。
各登場人物の背景が、4つの短編で、それぞれ書かれているので、
読み手としては、その人たちの背景を知っているから、余計感情移入しやすい。


正直、作者にやられたーと思った。


だいたい、泣ける!と帯に書いてある本で、泣かされた試しがないのだ。
今回も、どうせ泣けないだろう…と思って読んでいた。
最初の4編は実際、泣けなかったし。


でも違った。
読みにくいと思ってたちょっとクセのある文章も、
途中から気にならなくなっていた。


でも、小説自体は、決して絶望的な終り方をしない。
遺された者たちが、愛する者を失った悲しみを抱えつつも、
日常に追われながら、少しずつ前を向いて生きていく。
最後のページを読み終えて、本を閉じた時、
Dreams Come True の『ア・イ・シ・テ・ルのサイン』という歌を
思い出した。
大切な人に、いつもちゃんと気持ちを伝えておかないと。
いろいろと考えさせられた本だった。